個人の仕訳で出てくる「事業主貸」と「事業主借」とは?

個人事業の取引で仕訳を作成するとき、事業主貸や事業主借といった事業主勘定を使うことがあります。

これは法人にはない勘定科目です。

この事業主勘定は取り扱いが少しややこしく、慣れるまで難しく感じるかもしれません。

そこで、今日はこの事業主貸と事業主借の基本的な使い方や考え方についてみていきたいと思います。

 

元入金

まず事業主勘定の前に元入金についてご紹介します。

元入金とは、個人事業を始めるときに事業に入れるお金のことをいいます。

この元入金はあとで追加したり、引き出したりすることもできます。つまり変動します。

ただし年の途中で追加したり引き出したりしても、そのときは元入金勘定を使いません。

代わりに事業主勘定を使います。

そして帳簿を翌年に繰り越すときに、事業主勘定を精算して元入金勘定に組み入れます。

 

事業主勘定

事業主勘定には、事業主貸と事業主借という2つの勘定科目があります。

事業主貸は事業主個人に貸すときに使います。

反対に事業主借は事業主個人から借りるときに使います。

どういうことかといいますと、もし事業からお金を引き出したときは、事業から見れば、個人にお金を貸したことになるので、事業主貸を使います。反対に、お金を追加したときは、事業から見れば、個人からお金を追加で借りたことになるので、事業主借を使います。

 

少し例題とその仕訳について見てみます。

・事業を始めるときに、100万円を元入金として事業に入れた。

借方 金額 貸方 金額
普通預金 100万円 元入金 100万円

 

・プライベートでお金が必要となったので、20万円を事業のお金から引き出した。

借方 金額 貸方 金額
事業主貸 20万円 普通預金 20万円

 

・事業資金が足りなくなってきたので、10万円を追加した。

借方 金額 貸方 金額
普通預金 10万円 事業主借 10万円

 

もし取引がこれだけだった場合、事業主貸は20万円、事業主借は10万円が発生したことになります。これを最初の元入金100万円と精算します。

結果、翌年に持ち越される元入金は90万円(元入金100万円−事業主貸20万円+事業主借10万円)となります。

仮に上記の仕訳で、事業主勘定を使わず、元入金勘定を使って処理した場合、元入金は100万円ー20万円+10万円=90万円となり、精算後の元入金の金額と同じとなります。

 

 

 

上記の例題は損益について考慮していません。本来は損益も最終的に元入金に組み入れます。

利益が出た場合は、その分事業のお金が当初より増えたことになりますので、元入金が増えます。

反対に損失が出た場合、お金が当初より減ったことになりますので、元入金が減ります。

 

 

立て替えたケース

事業主勘定についての基本的な考え方は上記のとおりです。

ではこの基本を押さえた上で、次は実務でよく出てくる立て替えたケースについて見ていきましょう。

 

先ほどは単純に事業のお金を出し入れしただけなのですが、個人と事業の間でお金を立て替えたときも事業主勘定を使います。

たとえば、プライベートの費用を事業のお金で払った場合。

これは事業から見ると、個人に貸したことと同じです。よって事業主貸を使います。

反対に、事業の費用を個人のお金から払った場合。

これは事業から見ると、個人から借りたことと同じです。よって事業主借を使います。

 

それでは例題をいくつか見ていきます。

・事業で使う事務用品1万円を個人のお金から立て替えて払った。

借方 金額 貸方 金額
事務用品費 1万円 事業主借 1万円

 

・事務所の家賃10万円が個人の口座から引き落とされた。

借方 金額 貸方 金額
地代家賃 100万円 事業主借 10万円

 

・事業で使っている電話の料金3万円を個人のクレジットカードから払った。

借方 金額 貸方 金額
通信費 3万円 事業主借 3万円

 

上記の3つの例題はどれも事業の経費を個人のお金から立て替えたので、事業から見ると個人からお金を借りたことと同じです。よって事業主借を使います。

 

・自宅の水道光熱費2万円を事業のお金から立て替えて払った。

借方 金額 貸方 金額
事業主貸 2万円 現金 2万円

 

・プライベート専用のスマホ料金1万円が事業の口座から引き落とされた。

借方 金額 貸方 金額
事業主貸 1万円 普通預金 1万円

 

・プライベートで遊びに行った旅行代5万円を事業のクレジットカードで払った。

借方 金額 貸方 金額
事業主貸 5万円 未払金 5万円

 

上記の例題はどれも個人の支払いを事業のお金から立て替えたので、事業からみると、個人に対して貸したことと同じです。よって事業主貸を使います。

 

 

まとめ

今日は事業主貸と事業主借という事業主勘定についてみてきました。

事業主勘定が出てくるのは、事業以外のものつまりプライベートが絡んだときです。

ポイントは、まずその支出の内容は事業のものなのかそれともプライベートのものなのかを意識する。

つぎにその支払いは事業のお金で払ったのかそれとも個人のお金で払ったのかを把握しておくことです。

 

事業主勘定は最初は混乱しますが、慣れるとそんなに難しくはありません。

また事業主勘定から元入金への振り替え処理も会計ソフトだと翌年に更新するときに自動的にされます。

事業主勘定を理解して仕訳を作成していきましょう。