新しく法人を作った場合、個人事業で使っていた資産をその法人に引き継ぐことがあります。
この引き継ぎは、売却、賃貸、贈与などいくつか方法があります。
今日は実務上最もよく出てくる売却した時の処理についてご紹介します。
本記事は個人事業で使っていた自動車を売ったケースを例題にしてみていきます。
前提条件
次の前提で話を進めていきます。
- 軽自動車
- 取得日 2017年1月
- 売却日 2018年6月
- 取得価額は120万円
- 売却価格は、売却時の簿価
- 2017年12月の年末簿価 90万円
- 耐用年数 4年(定額法 償却率は0.25)
- すべて仕事に使用
減価償却
まず減価償却をするかどうかを検討します。
個人事業の場合、年の途中で資産を売却したとき、その途中までの期間について減価償却をするかどうかを選べます。
減価償却をする場合、1月から6月までの減価償却費は
120万円*0.25*6月/12月=15万円となります。
この15万円は個人事業の必要経費となります。
また売却時の自動車の簿価は、前年末簿価の90万円から15万円を引きますので75万円となります。
減価償却をしない場合は、減価償却費は発生しないので0です。
よって個人事業の必要経費にもなりません。
また売却時の自動車の簿価は前年末の時と変わらず90万円となります。
個人事業などの所得税を計算する場合、後述する事業所得や譲渡所得といった所得区分の違いにより、どちらを選択したほうが有利になるかはケースバイケースですが、今回のケースは売却時の簿価を売却価格にするので、売却時まで減価償却するほうを選択します。
《参考》
法人の場合は、期の途中で資産を売却したとき、減価償却はできません。
減価償却の対象となる資産は期末時に保有している資産のみと規定されているからです。
ただし法人税の場合、所得税と違い所得区分の違いはないので、減価償却をしなくても売却損益で精算されますので、法人の所得への影響は同じことになります。
売却損益は譲渡所得
所得税の取り扱いですが、仕事で使っていた自動車を売った場合、その売却で出た損益は事業所得ではなく譲渡所得となります。
たとえば、売却のときの簿価が75万円の自動車を100万円で売った場合、差額の利益25万円は譲渡所得として計算します。
事業所得には影響させません。
この場合における個人事業の仕訳は次のとおりとなります。
現預金100万円 / 自動車 75万円
事業主借 25万円
このように差額の25万円は損益には影響しないように事業主勘定で処理します。
今回のような法人成りのケースは、売却価格を売却時の簿価ですることが多いです。
つまり売却価格と簿価が同額となりますので、売却損益が出ることはありません。
売却価格 75万円ー自動車75万円=0円
となり、譲渡所得も出ません。
消費税について
もし自動車を売ったときに、消費税の課税事業者であった場合、自動車の売却価格が消費税の課税対象となります。
つまりその分の納める消費税が発生します。
今回のケースの場合、売却価格の75万が消費税の課税対象となります。
対象となるのは損益ではありません。売却価格です。
もちろん消費税の免税事業者である場合は、そもそも消費税の課税対象とはなりません。
結果
今回の法人成りのケースは次のような結果になります。
1.所得税
①事業所得
減価償却費の15万円を必要経費に計上
②譲渡所得
売却価格75万円ー売却時の簿価75万円=0円
2.消費税
売却価格75万円*8%=6万円
の消費税が発生
まとめ
今日は新しく法人を作って、個人事業で使っていた自動車をその法人に売った場合の取り扱いについてみてきました。
実務上は、法人成りのケースの場合、売却時の簿価で引き継ぐことが多いので、自動車の売却にかかる所得税は発生しないことが多いです。
ただし消費税は課税事業者であればかかってきます。
この消費税の取り扱いは忘れることが多いので注意しましょう。