会社は退職金を支給したとき、所得税(復興特別所得税含む。以下「所得税」)と住民税を天引きします。
この天引きする税金の計算は、退職所得申告書という書類の提出があるかないかで大きく変わってきます。
今日は退職金にかかる所得税と住民税の計算方法や納付に関して、会社側の処理についてご紹介します。
※本記事は、役員に退職金を支給した場合や2箇所以上から退職金を支給された場合などの特別な処理については、考慮していません。
退職所得申告書の提出の有無は?
退職金の計算は、退職した職員からの退職所得申告書の提出があるかないかで変わってきます。
退職所得申告書の提出がある場合は、勤続年数に応じた計算方法となります。
一方で提出がない場合は、勤続年数に関係なく、一定の税率を乗じて税金を計算します。
この退職所得申告書は、税務署等に提出する必要はなく会社での保管となります。
(税務調査があった場合など、調査官が確認することもありますので、大切に保管しておきましょう)
所得税と住民税の計算
それでは退職所得申告書の提出の有無ごとに、それぞれどういった計算になるのか、以下の例題でみていきましょう。
例題
- 退職金 1,000万円
- 勤続年数 9年2ヶ月
(1)退職所得申告書の提出がある場合
① 所得税
次の計算式で算出します。
(退職金ー退職所得控除額)*1/ 2=課税退職所得金額
課税退職所得金額*税率=所得税
退職金の金額は決まっているので、退職所得控除額の金額を計算します。
退職所得控除額は「勤続年数 * 40万円※」で算出します。
※勤続年数が20年までの部分は40万円、20年を超える部分は70万円となります。
この例題では20年を超える部分はないので、全て40万円となります。
また勤続年数に1年未満の端数が出たときは切り上げとなります。
今回の勤続年数は10年となります。(9年2ヶ月)
よって退職所得控除額は、
勤続年数10年*40万円=400万円
となります。
退職金は1,000万円なので、課税対象所得金額は、
(1,000万円ー400万円)*1/2=300万円(千円未満切捨)となります。
次にこの課税対象所得金額に税率をかけます。
税率ですが、課税対象所得金額を次の速算表に当てはめて計算します。
所得税は、
(300万円*10%ー97,500円)* 1.021=206,752円(1円未満切捨)
となります。
②住民税
住民税は上記で計算した課税対象所得金額に10%(市民税6%+道府県民税4%)をかけて計算します。
課税対象所得金額は300万円なので、
市民税は、300万円*6%=18万円(百円未満切捨)
道府県民税は、300万円*4%=12万円(百円未満切捨)
となります。
市民税と道府県民税を合わせて、
18万円+12万円=30万円
となります。
③手取り金額
退職金から①の所得税と②の住民税を天引きします。
よって手取り額は、
10,000,000円ー206,752円ー300,000円=9,493,248円
となります。
今回は退職金が1,000万円で、退職所得控除額400万円を超えていたので税金が発生しました。
仮に退職金が退職所得控除額以下なら税金は発生せず、非課税ということになります。
よって天引きする税金はありません。
(2)退職所得申告書の提出がない場合
①所得税
退職所得申告書の提出がない場合は、退職金の金額に20.42%をかけます。
よって天引きする所得税は、
退職金1,000万円*20.42%=2,042,000円
となります。
このように計算に勤続年数は関係ありません。
よって少額でも退職金が発生したときは、必ず20.42%の所得税が発生します。
②住民税
住民税の計算は少しややこしく、退職所得申告書の提出がなくても、提出があったときと同様に計算します。
よって、課税対象所得金額に10%(市民税6%+道府県民税4%)をかけて計算することになります。
課税対象所得金額は300万円なので、
市民税は、300万円*6%=18万円
道府県民税は、300万円*4%=12万円
となります。
市民税と道府県民税を合わせて、
18万円+12万円=30万円
となります。
③手取り金額
退職金から①の所得税と②の住民税を天引きします。
よって手取り額は、
10,000,000円ー2,042,000円ー300,000円=7,658,000円
となります。
納付について
最後に発生した税金の納付についてです。
所得税は、給与の源泉所得税の納付書の退職金の欄に記載して、退職金の支給した月の翌月10日までに納付します。
納期の特例を適用している場合は、半年に一度の特例の期限までに納付します。
住民税は、納入書に記載して退職金の支給した月の翌月10日までに納付します。
納期の特例を適用している場合でも、退職金にかかる住民税の納付期限は翌月の10日です。特例はありません。
まとめ
今日は退職金を支給したときの税金について、会社側の処理についてみてきました。
退職所得申告書の提出があるかないかで計算が変わってきます。
また計算した結果、税金が発生したときは原則的に翌月の10日までの納付です。
忘れないように気をつけましょう。