事業をする上で、個人事業としてするのかそれとも法人を作ってするのかという選択があります。
双方にいろいろなメリットとデメリットがありますので、どちらが良いというのはそれぞれケースバイケースです。
その選択の基準となるものに、事業で得た所得(利益)の金額があります。
税金は所得の金額に税率をかけて計算します。
この税率や税金の種類は個人と法人では違います。
つまり、所得の金額によって、個人事業のほうが税金が安くなるのかそれとも法人のほうが安くなるのかが変わってきます。
ただし、計算は個々の状況によって違ってくるので、どちらが有利になるのかはケースごとに計算してみないとわかりません。
一般的には、所得が多くなるほど法人の方が有利になります。
よって、最初は個人で事業を開始して、所得が増えてくると法人成りを検討することが多いです。
そこで今日は、ざっくりとした計算にはなるのですが、個人事業と法人ではどちらが有利になるのか、境目となる所得の金額について例題でみていきたいと思います。
例題
例題は以下の前提条件で見ていきます。
(1)共通
- 当事業年度開始日は平成31年1月1日
- 本店(事務所)所在地は大阪市
- 健康保険や年金といった社会保険は考慮しない
(2)個人事業
- 個人事業では青色申告特別控除65万円を適用
- 所得税と個人住民税の所得控除は基礎控除のみ(38万円と33万円)
- 個人住民税は所得割のみ考慮(税率は10%)
- 個人事業税の税率は5%
(3)法人について
- 中小法人
- 地方税は標準税率適用の法人
- 法人住民税の均等割は7万円
所得税と法人税の計算や税率についてはこちらの記事でご紹介しています。
例題①
【比較】
(1)個人事業
(2)法人で事業。役員報酬はなし。所得は全て法人に残すケース。
この比較では、境目となる所得の金額は約800万円となります。
つまり所得が800万円以下なら個人事業、800万超なら法人が有利となります。
それでは計算を見ていきます。
1、個人事業の場合
(1)個人の税金
①所得税
所得(利益)800万円ー青色申告特別控除65万円=735万円
735万円ー基礎控除38万円=697万円
697万円*23%ー636,000円=967,100円
967,100円*2.1%=20,309円
967,100円+20,309円=987,409円→987,400円(百円未満切捨)
②個人住民税
所得(利益)800万円ー青色申告特別控除65万円=735万円
735万円ー基礎控除33万円=702万円
702万円*10%=702,000円
③個人事業税
所得(利益)800万円ー事業主控除290万円=510万円
510万円*5%=255,000円
④合計
①+②+③=1,944,400円
2、法人の場合
(1)個人の税金
役員報酬がないためなし
(2)法人の税金
①法人税
800万円*15%=120万円
②地方法人税
120万円*4.4%=52,800円
③法人事業税
400万円*3.4%=136,000円
400万円*5.1%=204,000円
136,000円+204,000円=340,000円
340,000円*43.2%=146,880円→146,800円(百円未満切捨)
340,000円+146,800円=486,800円
④法人府民税
120万円*3.2%=38,400円
38,400円+均等割20,000円=58,400円
⑤法人市民税
120万円*9.7%=116,400円
116,400円+均等割50,000円=166,400円
⑥合計
①+②+③+④+⑤=1,964,400
3、まとめ
個人事業では1,944,400円となり、法人では1,964,400円となりました。
ほぼイコールの金額なので、所得800万円が境目の金額となります。
例題②
【比較】
(1)個人事業
(2)法人で事業。役員報酬は可能な限り支給。法人に所得を残さないケース。
この比較での境目となる所得の金額は約300万円となります。
つまり所得が300万円以下なら個人事業、300万超なら法人が有利となります。
それでは計算を見ていきます。
1、個人事業の場合
(1)個人の税金
①所得税
所得(利益)300万円ー青色申告特別控除65万円=235万円
235万円ー基礎控除38万円=197万円
197万円*10%ー97,500円=99,500円
99,500円*2.1%=2,089円
99,500円+2,089円=101,589円→101,500円(百円未満切捨)
②個人住民税
所得(利益)300万円ー青色申告特別控除65万円=235万円
235万円ー基礎控除33万円=202万円
202万円*10%=202,000円
③個人事業税
所得(利益)300万円ー事業主控除290万円=10万円
10万円*5%=5,000円
④合計
①+②+③=308,500円
2、法人の場合
(1)個人の税金
①所得税
役員報酬として300万円の給与収入が発生。
給与収入300万円ー給与所得控除108万円=192万円
192万円ー38万円=154万円
154万円*5%=77,000円
77,000円*2.1%=1,617円
77,000円+1,617円=78,617円→78,600円(百円未満切捨)
②住民税
給与収入300万円ー給与所得控除108万円=192万円
192万円ー33万円=159万円
159万円*10%=159,000円
③合計
①+②=237,600円
(2)法人の税金
所得(利益)の300万円を役員報酬として支給。
よって法人の所得は0のため均等割の70,000円のみ発生。
(3)合計
(1)+(2)=307,600円
3、まとめ
個人事業では308,500円となり、法人では307,600円となりました。
ほぼイコールの金額なので、所得300万円が境目の金額となります。
まとめ
今日は個人事業と法人の有利選択について、境目となる所得の金額を計算してみました。
今回の計算は、役員報酬の支給について極端なケースであったり、社会保険を考慮しなかったりと、正確な試算とはいえません。また税率もその時によって変動します。
ざっくりとした目安の金額ぐらいに思っていただければと思います。
あと税金面での有利不利を考えるなら、消費税の免税があります。
売上が1,000万円超えると消費税の課税対象となりますので、個人事業から法人成りを検討するなら売上1,000万円を1つの目安にすると良いです。
基本的に法人にするとさらに2年間は消費税の免税となります。